税理士事務所のM&Aの売却相場は?評価ポイントについて解説

税理士事務所のM&Aの相場・費用は?売買に関する評価ポイントや価格に影響する要因を解説します

税理士事務所のM&Aを検討する際、最も気になるのは「自分の事務所が一体いくらで評価されるのか」という相場観です。

士業事務所M&A支援協会では30年以上にわたり士業事務所のM&A支援を行ってきました。その実績から導き出した結論として、税理士事務所の譲渡対価は「毎年安定して見込める報酬の1年分」が適正な目安です。

本記事では、当協会が支援実績から得たデータを基に、正しい相場の考え方から、価格を左右する評価ポイント、価値を落とさないための承継戦略までを詳しく解説します。

【結論】税理士事務所M&Aの相場は「安定報酬の1年分」

当協会が30年以上の支援実績から導き出した結論として、営業権(のれん代)の算出は「毎年安定して見込める報酬(顧問料等)の1年分」が適正な目安です。

ここで言う「安定報酬」とは、顧問料や記帳代行など、毎月・毎年継続して見込める収入のことです。相続案件などのスポット報酬は含みません。

安定報酬に含まれるもの・含まれないもの

含まれる顧問料,決算報酬,確定申告報酬,記帳代行など継続収入
含まれない相続案件などスポット収入,一時的な特需

同じ売上でもキャッシュフローで評価は変わる

当協会の支援経験では、同じ売上でもキャッシュフロー(収益性)によって評価が大きく変わります。

年間顧問報酬5,000万円の事務所が2つあるとします。

  • A事務所:顧問先150社、職員8人、営業利益1,000万円
  • B事務所:顧問先80社、職員5人、営業利益3,000万円
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報酬基準では同じ5,000万円の評価ですが、B事務所のほうが生産性・利益率が高く、本来はもっと評価されるべきです。

【セルフ診断】あなたの事務所は今どのステージ?

M&Aを検討する際、まず自分の事務所が今どのステージにあるのかを客観的に把握することが重要です。当協会の支援経験では、「まだまだ大丈夫」と思っていても、客観的なデータを見ると実は衰退期に入っているケースが少なくありません。

売上規模別に見るM&Aの特徴

売上規模事務所の特徴相手先の見つけやすさM&Aのポイント
2,000万円未満所長1人+パート程度、顧問先20〜30件△ 見つけにくい譲渡対価は期待しにくい。顧問先を引き継いでもらえるだけでも良しとする場合も
2,000万〜5,000万円所長+職員2〜3名、顧問先40〜80件◎ 最も見つけやすい最も数が多い規模帯。譲渡対価もそれなりに期待できる
5,000万〜1億円所長+職員5〜10名、顧問先100〜200件○ 多い条件交渉の余地が大きく、譲渡対価もしっかり期待できる
1億〜3億円職員10〜30名、顧問先200〜500件○ 中堅以上が中心譲渡対価は高額。組織同士の統合が課題になる
3億円以上職員30名以上、顧問先500件以上△ 大手・ファンド非常に高額。複雑な交渉・本格的なデューデリジェンスが必要

現状を把握するためのチェックリスト

以下の4項目を定期的に(年1回程度)確認し、客観的に現状を把握することをお勧めします。

チェック項目確認ポイント注意すべきサイン
① 売上の推移過去3〜5年の売上推移はどうか3年連続で減少している
② 顧問先の状況新規獲得と解約の比率、顧問先の高齢化顧問先の平均年齢が上がっている
③ 職員の状況年齢構成、退職者の増減、新規採用離職が続いている、採用できていない
④ 所長ご自身の状況健康状態、モチベーション、新業務への意欲体力・気力の低下を感じる

事務所のステージで変わる「交渉力」

税理士事務所には「創業期→成長期→安定期(充実期)→衰退期」というライフサイクルがあります。M&Aを検討するタイミングによって、選べる選択肢の数が大きく変わります。

事務所のステージ交渉力状況
安定期(充実期)「選べる立場」多くの相手先候補から最適な先を選べる。有利な条件で交渉可能。準備・説明・引き継ぎに十分な時間を取れる
衰退期「選ばれる立場」相手先候補が少ない。条件面で譲歩せざるを得ない。「もらってもらえるだけでもありがたい」状態になりかねない
当協会からのアドバイス

自分だけでは客観的な判断が難しい場合は、M&A専門のアドバイザーに意見を聞くことも有効です。当協会では無料相談を実施しており、秘密厳守で現状診断を行っています。「選べる立場」でいるうちにM&Aを検討することが重要です。

秘密厳守24時間受付中

【戦略】希望価格で売却するための「3年プロセス」

M&Aは、事務所が「衰退期」に入り、売上が下がり始めてからでは手遅れです。「安定期(充実期)」のうちに動き出すことが、希望価格での売却を実現する鍵となります。

なぜ3年が必要なのか?

税理士事務所は形のある商品を扱うのではなく、所長先生・職員・顧問先との人間関係で成り立つ無形のサービス業です。

業務ノウハウと人脈は所長先生に一元的に集約されているため、一朝一夕に引き継ぐことはできません。引き継ぎ期間は短すぎても長すぎても良い結果をもたらさず、当協会では数多くの実例を精査して3年という期間を導き出しました。

価値を落とさない「3年ソフトランディング」

当協会が30年以上の支援実績から導き出した、顧問先を1件も漏らさないための「王道」スケジュールです。

年次所長の役割具体的な活動
1年目所長として在籍し業務継続看板は統合先に変更。新所長候補を配属し、日々の業務の中でやり方・関係性・マネジメントを引き継ぐ。顧問先へは「経営統合」を報告し安心を伝える
2年目非常勤(週2〜3日)へ移行徐々に依存度を下げていく。新体制での運営を確立し、所長がいなくても回ることを証明する
3年目顧問・相談役として一歩引く完全引退に向けた最終調整。必要に応じて顧問先へのフォローを継続
失敗事例

ある所長がM&Aから5年後に引退した際、現場を離れていたにもかかわらず、3割の顧問先が「所長がいなくなるなら」と解約した実例があります。これを防ぐのが「3年間の人格承継」です。

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M&Aを検討する相談時期は「引退ゴールの3年半前」が理想です。統合先探しに3〜6か月、その後3年間の引き継ぎ期間を確保するためです。

価格を左右する「事務所の質」8つの評価ポイント

事務所の評価を高め、希望価格での売却を実現するために、当協会コンサルタントが重視する8つの評価ポイントを整理しました。

カテゴリ評価指標高評価のポイント低評価の要因
収益性・効率性① 人件費率60%以下(理想は50%以下)70%以上(利益を圧迫している)
収益性・効率性② 組織の属人性仕組み化され、担当者に権限移譲済み所長依存度が高く、代わりがいない
収益性・効率性③ 業務の効率化業務が標準化され、引継ぎがしやすい体制マニュアルがなく属人的な運用
顧客基盤④ 顧客の分散度特定顧問先への依存が低く、分散している特定の1社への売上依存が強い
顧客基盤⑤ 顧問契約の継続性長期契約が多く、解約率が低い短期契約・単発契約が多く解約率が高い
顧客基盤⑥ サービスの多角化相続・事業承継・人事労務など高付加価値業務あり税務顧問のみで収益源が単一
人材・組織⑦ 職員構成ベテランと若手がバランスよく在籍高齢化が進み、引継ぎ後の離職リスク大
人材・組織⑧ 離職率定着率が高く安定している離職率が高く、人員不足リスクあり

売却前の「磨き上げ」で評価を高める

譲受側にとって魅力のある事務所づくりが、良い条件でのM&Aにつながります。当協会では、時間的余裕があれば「磨き上げ」を行うことを推奨しています。

磨き上げ項目具体的な取り組み
離職率を下げる働きやすい環境整備、評価制度の明確化
人件費率を抑える業務効率化、適正な給与体系の構築
顧問先依存度を分散大口顧問先への依存を減らし、リスク分散
所長依存度を下げる職員に窓口を切り替え、担当制を確立
磨き上げのポイント

磨き上げには、第三者としての視点と「譲受側がどう評価するか」を押さえることが必要です。自己評価だけでは気づかない課題も多いため、専門のコンサルタントに相談することをお勧めします。

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当協会の支援経験では、買い手が評価するのは「顧問先をどれだけ引き継げるか」です。所長先生への依存度が低く、業務が標準化されていれば引き継ぎやすいと評価されます。自己評価が低い所長先生でも、当協会コンサルタントが評価すると高く評価できる場合が多いです。

【実例】相場通りに譲渡できたケース、叩かれたケース

当協会が30年以上の支援で見てきた実例から、成功と失敗の分かれ目を解説します。

【成功】相場よりも高い評価で成約

九州で税理士事務所を経営する30代後半のB先生は、海外進出コンサルティングに注力するため、数年後の海外移住を見据えていました。

しかし、自分以外に有資格者がおらず、このままでは廃業せざるを得ません。B先生は早くから業務体制の仕組化に着手。日々の顧問先対応は職員に任せ、権限移譲と業務標準化を徹底しました。

譲受先候補のC税理士事務所は、B事務所の体制を高く評価。「事務所の体制がしっかりされていますね。うちとしても経営統合しやすいと思いますので、ぜひ話を進めていただきたい」と強い意欲を見せ、相場よりも高い評価で成約しました。

B先生は譲渡対価をコンサルティング会社に投資し、海外事業もスムーズに軌道に乗せています。

成功のポイント

第三者が承継しやすい体制」への変革が、M&Aを成功に導く推進力です。出口を見越して磨き上げれば、買い手は高い評価を提示します。

【失敗】経営の不健全さと「判断ミス」

東京23区内のP税理士事務所は、公認会計士であるP先生が監査業務に専念し、税務業務は職員7名に「丸投げ」状態でした。

1990年代前半の開業当時は顧問先が次々と獲得でき、毎年の昇給を30年近く続けた結果、税理士資格のない職員でも年収1,000万円超が複数名いる状況に。所内には「自分たちが所長を食べさせている」という空気が蔓延していました。

P先生が急病で倒れ、M&Aを進めることになりましたが、譲受を検討したQ税理士事務所からは厳しい査定が下されました。

不健全な経営状態ですね。譲り受けるにはリスクが高い

結果、譲渡対価は相場の7割程度に。Q税理士事務所は全職員と個人面談を行い、「業績に対して給与水準が高すぎます。現行水準は継続できません」と申し渡し、7名中2名が退職する結果となりました。

教訓

野放し状態の組織運営と、業績に見合わない高給与体系は、M&A時に「負の遺産」として顕在化します。

【失敗】所長急病からの「駆け込みM&A」

京都内のJ税理士事務所(職員4名)で緊急事態が発生しました。70代半ばのJ先生が急病で倒れ、意識不明の状態に。申告業務を含むすべての業務が稼働停止してしまいました。

J先生は「仕事が辛くなったら検討すればよい」と事業承継を先延ばしにしていました。番頭格の50代の息子(無資格)がすぐにM&A支援機関を探し、当協会に連絡。

通常、M&Aは相談から契約まで半年を要しますが、過去に取引実績のある大手税理士法人に打診したところ、1か月半という異例のスピードで契約締結に至りました。

ただし、J先生が引き継ぎできないため顧問先離脱のリスクは高く、譲渡対価は相場より低い水準に。1年後の顧問先維持率で精算する調整条項を設けました。息子の懸命な努力で離脱は最小限に抑えられましたが、事前の対策があればより良い条件で承継できたはずです。

教訓

日本人の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳。所長の「経営者としての健康寿命」はさらに短いと考えるべきです。納得できる条件で交渉するには時間が必要です。

士業事務所のM&A事例集

士業事務所のM&A事例集

19人の所長と職員の本音に迫る


日本全国の士業事務所に取材を行い、全44ページにわたってM&Aの事例をご紹介しています。譲渡側・譲受側それぞれの「想い」や「葛藤」のほか、M&Aを成功に導くためのポイントがわかります。

売却を検討する側が押さえておくべきポイント

M&Aを成功に導くためには、売り手側の準備と心構えが非常に重要です。当協会が30年以上の支援経験から見えてきた、売却側の注意点を解説します。

「決断の先延ばし」が最大のリスク

当協会の支援経験では、M&Aが上手くいかないケースの多くは「決断の先延ばし」が原因です。

リスク内容
事務所価値の低下売上減少、職員退職、顧問先高齢化が進み、評価額が下がる
選択肢の減少条件の良い相手先から選べなくなり、「選ばれる側」になる
急ぎ対応の危険所長の健康問題などで時間がなくなり、不利な条件を受け入れざるを得ない
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「まだ早い」「決断できない」「何から始めればいいかわからない」が先延ばしの主な理由ですが、相談したからといって必ずM&Aする必要はありません。「検討する」と「実行する」は別です。まずは情報収集から始めることが大切です。

知らない間にリスクを抱えている可能性

税理士事務所は、気づかないうちに様々なリスクを抱えていることがあります。これらのリスクが顕在化すると、事務所価値の急落や相手先難航、大幅譲歩、最悪の場合は廃業の可能性もあります。

カテゴリ主なリスク
所長リスク健康問題、モチベーション低下、業務過多
顧問先リスク大口顧問先への依存、顧問先の高齢化・廃業
職員リスクキーパーソンの退職、採用難、高齢化
経営リスク売上減少トレンド、利益率低下、設備老朽化

M&Aは、これらのリスクへの「備え」「保険」として有効です。「今は問題ない」と思っていても、リスクは常に存在するため早めの検討が重要です。

失敗を招く3つの落とし穴

当協会が見てきた失敗事例には、共通するパターンがあります。

失敗パターン内容回避策
事務所経営の欠陥野放しの組織運営、業績に見合わない高給与体系適正な給与体系と組織管理を整える
所長の判断ミス職員への早期開示、条件の口約束情報管理を徹底し、条件は必ず書面化
支援機関の選定ミス税理士業界に不慣れな仲介会社への依頼士業M&Aの実績がある専門機関を選ぶ
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適正な相手先を見つけ、適正価格で譲渡するためには、これらの落とし穴を回避することが不可欠です。

買収(譲受)を検討する側が押さえておくべきポイント

M&Aで事務所を譲り受ける側にも、成功のために押さえておくべきポイントがあります。

急いで進めることはお勧めできない

当協会の支援実績では、譲渡契約まで最短1か月半で進めたケースもありますが、急いで進めることはお勧めできません

工程目安期間注意点
候補選定〜絞り込み約3か月複数の選択肢から慎重に検討する
条件交渉〜基本合意約1〜2か月じっくり交渉することが重要
デューデリジェンス〜契約約1〜2か月潜在リスクを見逃さない
当協会からのアドバイス

足元を見られずに交渉を進めるためには、余裕を持って進めることが望ましいです。「良い案件だから急がないと」と焦ると、見落としや不利な条件を受け入れてしまう可能性があります。

譲受先を選ぶ際の評価視点

買い手が確認すべき主な評価ポイントは以下の通りです。

評価カテゴリ確認ポイント
収益性人件費率、利益率、安定報酬の割合
組織体制所長依存度、業務の仕組化、職員構成
顧問先基盤顧客分散度、継続率、業種構成
潜在リスク離職リスク、顧問先離脱リスク、設備状況

相性」が成功の鍵

税理士事務所M&Aは「売って終わり」「買って終わり」ではありません。M&A後も所長・顧問先・職員との関係が続くため、相手先との「相性」が非常に重要です。

譲渡対価が高ければよいわけではなく、以下の点を重視して選ぶことが成功の鍵となります。

  •  経営方針や業務への考え方が自社と合っているか
  • 職員・顧問先との相性は問題なさそうか
  • 引き継ぎへの協力姿勢は十分か
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所長先生との人間関係で顧問先とのつながりが保たれているケースが多く、相性を軽視するとM&Aが失敗する可能性が高くなります。

税理士事務所のM&A相場に関するQ&A

都市部と地方での相場観の違いはありますか?

違います。 都市部は買い手需要が多く相場は高めです。地方は買い手不足で低めになる傾向があります。ただし、地方でも顧客基盤が安定していれば適切な買い手とマッチングできます。

小規模事務所でも売却できますか?

はい、規模に関わらず売却可能です。1人事務所から数百人規模の税理士法人まで成約実績があります。小規模でも顧問先との関係性が良好で、業務が整理されていれば買い手は見つかります。

売上が下がってからでは遅いですか?

条件面で不利になります。 衰退期に入ると「選べる立場」から「選ばれる立場」に逆転し、相場も下がります。「まだ大丈夫」と思っている安定期こそがベストタイミングです。

税理士事務所M&Aの進め方と具体的な流れは?

詳しくはM&Aの流れをご覧ください。

まとめ:一刻も早い決断が、最良の事業承継につながる

税理士事務所のM&Aは、所長の健康寿命や市場の需給バランスに大きく左右されます。

  • 安定報酬の1年分」が相場
  • 人件費率を抑え、仕組みを整えるほど高値がつく
  • 理想は「引退の3年半前」からの相談開始

「まだ大丈夫」と思っている安定期こそが、最も多くの選択肢から納得のいく相手を選べるベストタイミングです。

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