後継者不在の地方エリアで、なぜ理想のM&Aを実現できたのか!?

譲渡事務所

中島社会保険労務士事務所

開業年1998年
顧問先数約40件
職員数1名
譲渡
譲受
譲受事務所

社会保険労務士法人
ゆたかパートナーズオフィス

開業年2015年
顧問先数約200件
職員数11名

富山県内の同支部の先生の急逝を機に「お客様にだけは迷惑はかけられない」と痛感し、現役続行を前提に50代でM&Aを決断した中島先生。後継者探しが困難な地方でありながらも、早めの決断で理想の事務所と巡り合えた。改めて組織として再出発する今の気持ちに迫る。

――中島先生がM&Aを意識し始めたきっかけを教えてください。


中島: 私自身、仕事で何度か命に関わる経験をしたことと、50歳を過ぎた頃から「60歳までには何らかの道筋をつけたい」と漠然と考えていたことがきっかけです。決定打になったのは、4年ほど前に富山県内の同支部の先生が急逝されたことです。当時95歳で現役だった先生が亡くなり、顧問先の皆さまが困惑されているのを目の当たりにしました。残された十数社の顧問先を支部でどう割り振るかなど、その後のフォローにも関わるなかで、「もし自分に万が一のことがあったら、お客様や周りの方たちに大きな負担をかけてしまう」と痛感し、そこから真剣に動き始めました。実際、M&Aをする直前まで1人で40件以上の顧問先を抱えていて、年末年始も土日も関係なく働き続けている状況でした。体力的にも精神的にも限界を感じていたので、結果としてよいタイミングだったと思います。

――M&A以外の選択肢も検討されていたのでしょうか?

中島: 過去にはスタッフが複数人いた時期もありましたが、全員独立を選んで卒業していきました。親族への承継は考えておらず、選択肢は自然と絞られていきました。地元の知り合いの先生の事務所と一緒になることも考えましたが、やはり近しい間柄だと条件交渉でやりづらさが出る懸念があり、自分の希望を実現しやすいM&Aを最終的に選びました。

――経営統合を選んだことへの周囲の反応はいかがでしたか?

中島: 同業の先生からは「1人の方が楽じゃない?」「なんで面倒な道を選ぶの?」とよく聞かれましたし、ある先生からは「僕たちの年齢なら、ある程度顧問先もいて収入も途絶えない。このままで十分ハッピーじゃない?」と言われたこともありました。でも、そんな声を聞くたびに、違和感のようなものが日に日に大きくなっていることに気が付きました。顧問先を守るだけではなく、まだ何かできることがあるはずだ、と焚きつけられたんです。M&Aで組織になることで、1人ではやりたくてもできなかったことが形にできるはず。同支部の先生の急逝がM&Aを考えるきっかけではありましたが、M&Aを「前向きな挑戦」として捉えるようになったのは、自分の中の違和感に気づけたからです。もともと士業事務所M&A支援協会さんにも引退ではなく現役続行の意向を伝えていて、富山の拠点は残し、今後5年は今のペースで続けることを条件としてお相手を探しました。髙橋先生とはトップ面談でいろいろとお話しさせていただきましたが、価値観だけでなく経歴の共通点も多く「この人なら任せられる」と感じました。

――髙橋先生が譲受をご検討された背景も教えてください。

髙橋: 弊所は2015年に名古屋で開業し、統合前の段階でスタッフは11名、お客様は約200社という規模でした。M&Aを考えたのは、単に規模を拡大したいというより、組織の「基盤」を強固にしたいという思いからでした。これからは手続きや給与計算がシステム化される時代です。だからこそ、自分たちにはない強みやノウハウを持つ事務所と一緒になることで、より質の高いサービスを提供できる組織にしたい。特に人事コンサルや若手社員の教育といった領域に挑戦したかったんです。最初は東京や大阪を検討していましたが、私は金沢の大学出身で、北陸は「第2の故郷」とも言える場所でした。そんな折に能登半島地震が起きたんです。経営者団体の視察で被災地を訪れた際、記憶の中の景色とはまったく違う状況を目の当たりにして、強い衝撃を受けました。そんな「第2の故郷になんとか恩返しがしたい」と強く感じていたタイミングで、富山の中島先生のお話をいただいたんです。私自身、開業のきっかけが東日本大震災でしたので、今回の出会いには運命的なものを感じました。

――安田常務はM&Aの話を聞いた際、どう感じられましたか?

安田: 私は「髙橋社長がやりたいのであればぜひ」と背中を押しました。実際にお会いしてお話しするなかで、中島先生は私たちにはない経験や知見をお持ちで、特に人事コンサルティング分野の知見は、まさに私たちの事務所が目指しているものでした。今日もこの取材前に名古屋のスタッフ向けに研修をしていただいたのですが、現場で直接活かせる学びが非常に多くありがたかったです。

――引き継ぎのなかで課題に感じられていることはありますか?

中島: 統合を進めるなかで、長年、私1人で完結していた業務を組織全体に共有していくためには、大きな意識改革が必要だと痛感しました。当たり前ではありますが、複数人で仕事を進めるうえでは「誰に、どのタイミングで情報を伝えるか」を考える必要があります。同時に、新しい環境やシステムについていくのは大変な部分もありますが、名古屋の皆さんに丁寧に教えていただき本当に助けられています。

髙橋: 名古屋の事務所にとっても、遠隔の富山拠点ができたことは大きな刺激になりました。これまでは同じフロア内ですべてが完結する環境でしたが、中島先生とのやり取りを通して、「離れていても 正確に伝わるように情報を整理し、言語化しなければならない」という意識が所内に芽生えたのはよい変化です。互いの強みを補完し合うことで、次の成長のための土台が構築できていると実感しています。

――顧問先の皆さまの反応はいかがでしたか?

中島: 定期訪問の際に、M&Aの理由や今後の体制について直接お話ししました。皆さま一様に驚かれましたが、私の年齢を伝えると「中島さんの方が若いのに、自分はまだ全然考えていなかった。自分も事業承継を考えなきゃいけないな」と、ご自身の会社の将来を考える機会にもなったようです。

髙橋: 統合して1カ月後には、主要なお客様はすべて中島先生と一緒にご挨拶に回りました。体制が変わることで一番不安に思われるのはお客様です。自分が逆の立場なら「どんな人が来るのか」「どんな事務所と一緒になったのか」と、まずは顔を見たいはず。2人で一緒に回って直接ご説明したことで、安心していただけたと思います。

――M&Aによる経営統合後、他にはどんな変化がありましたか?

中島: 苦手としていた手続き業務や給与計算、助成金の申請などをすべて名古屋の事務センターでサポートしてもらえるようになったことは大きいですね。おかげで本来やりたかった相談業務やコンサルティングに集中できる体制になりつつあります。以前は法改正があるたびにお客様全員に案内を送るのも一苦労でしたが、今はスタッフの皆さんがサポートしてくれる。組織の強みを実感しています。あとは、新規開拓に対する意識がガラッと変わりました。以前は「紹介があればいいな」というスタンスで自分から開拓することはほぼなかったんです。でも今は、経営方針発表会などで具体的な数値目標を共有されるようになり、周りから刺激を受けることで大きく意識が変わっていきました。自分から営業をして提案するなんて、今までならたぶんしていなかったと思います。

――環境が変わったことで、新たなやりがいを感じられていらっしゃるんですね。

中島: 実際、この半年間で頑張った結果として、新規開拓が進み、約10件分の売上に相当する顧問先を増やすことができました。明確な数字の目標ができたことで前向きに仕事に取り組めていると思います。今後は富山でも若手を採用して教育していきたいと考えているので、さらに顧問先を増やしていくつもりです。

髙橋: 今回のM&Aによって、双方にとても大きな相乗効果が生まれていると感じています。これまで、お客様ごとの状況に応じた実務対応を重視してきました。今後は人事評価制度や安全衛生管理体制についても、より体系的な支援体制の強化を進めていくつもりです。中島先生のノウハウを掛け合わせて、より盤石なサービスをご提供できるように準備を進めているところです。手続き業務は私たちが巻き取り、中島先生にはコンサルティング領域での強みを発揮していただく。互いの得意分野を最大限に活かし、適材適所で業務を行うことで、お客様への提供価値も格段に上がっていくはずです。実は、M&Aに向けて計画を立てて組織体制を整えた結果、副次的な効果として本社の残業時間が激減したんです。安田常務が導入したフレックス制度などの効果もあり、残業削減につながったと思います。もちろん、M&Aによって組織体制や仕事のやり方が大きく変わることに対して反発したり戸惑うスタッフもいました。でも今はそれぞれが新しい体制に馴染み、人員体制も落ち着いて組織としてだいぶ安定しています。

――それぞれの今後の展望について教えてください。

髙橋: 単なる規模拡大ではなく、事務所を「強く」していきたいですね。手続きと相談業務を分けて専門性を高めれば、高度な相談に注力でき、顧問先を守り抜けます。理想は各スタッフがやりたいこと に特化できる「タレント型コンサルティングファーム」。芸能事務所みたいに、YouTuberがいれば俳優もいる、みたいな(笑)。みんなが得意なことでハッピーになれる組織にするためにも、全員を「得意な仕事をメインにやれる状態」まで持っていきたいです。また、今回のM&Aで得た経験は、我々が経営者のお客様にアドバイスする際にも非常に大きな財産になると確信しています。

中島: 先ほどの繰り返しにはなりますが、富山で若手を積極的に採用したいと考えており、すでに面接なども進めています。向こう2~3年でさらに10〜20社ほど顧問先も増やすつもりです。若手を採用・教育し、一緒に仕事をしていく。この先の5年間はそれが私の最低限の役割だと思っています。

――最後に、M&Aをご検討している先生方へアドバイスをお願いします。

髙橋: 成功の大前提は、「価値観の一致」です。トップ面談の段階で、どのような事務所を目指すのかという、根本の価値観をすり合わせておくことが重要で、そこさえ合致していれば細かいやり方の違いは後から意外とどうにでもなります。最初は新しい環境に合わせるなど面倒なこともあるかもしれませんが、その壁を乗り越えれば自分のやりたかったことができる環境が手に入るはずです。先入観で立ち止まらず、前向きに考えてみてほしいですね。

中島: 士業の役割は顧問先を守り続けることですが、自分1人では年齢的な制限もあり、いつか必ず限界が来ます。M&Aは、その壁を乗り越えて、事務所を存続させるための有効な選択肢です。70代になってから動き始めても心身ともに辛くなってしまうので、できるだけ体力に余裕がある50代のうちに動き出すことが、ご自身にも顧問先にも最善の道ではないでしょうか。早いうちに動きだせば、じっくり考える時間もあります。今回とてもありがたかったのは、最終決断をする前に、長めの「お見合い期間」を設けていただいたことです。実際に会議や研修に参加し、髙橋先生はもちろん、安田常務のような、質と量を両立させて生産性を高めている優秀な方がいらっしゃると分かり、「この体制なら安心して一緒にやっていける」と確信できたのは大きかったです。

早めの相談が導いた前向きなM&A

譲渡側の中島先生の所属支部には、同業の先生が20人もいないという状況でしたが、早めにご相談をいただいたことも功を奏し、無事にお相手を見つけることができました。中島先生と髙橋先生は初対面時から相性が良く、一般的な「引退に向けた譲渡」というより、「新しいチャレンジをするための統合」として前向きに話が進みました。事業承継に早すぎることは決してありません。まずは情報収集だけでも始めておくことが成功の秘訣といえるでしょう。(担当/高見)

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M&A成功のポイント

Point
  • 体力に余裕がある50代での早めの決断・準備
  • 細かい条件の前に根本的な価値観を確認
  • 早めに動いたからこそ取れた「お見合い期間」

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