社労士業界全体の底上げのためにM&Aで加速させる「教育インフラ」構想

業界の先駆者は何を見据え、どのようにM&Aを活用しているのか? 創業49年、九州初の社労士法人の二代目を務める北原先生に、これまでの歩み、M&Aに対する考え、そして社労士業界をよりよくするための「教育インフラ」構想までうかがった。

――現在の事務所の状況と、これまでの歩みを教えてください。


現在の顧問先は約650社で、東京・大阪は10名未満の企業が多い一方、本社のある福岡は20名以上、給与計算を受注している企業も入れると50〜300名未満くらいの規模の顧問先が中心です。父から事務所を引き継いで以降、顧問先の規模感は全体的に大きくなっています。売上の軸は顧問契約で、手続き・給与計算が中心です。約20年前、私の入社当時は父と私を含めて7名の事務所でしたが、2014年の承継時には24名ほどにまで増え、着実に地盤を固めてきました。

――規模が拡大する中で、経営において大切にしている考え方は?

社労士としてできることの幅を広げ、バックオフィスに限定せずに「社労士の仕事」として評価される領域を分たちで広げていきたい。事務所の成長は、その土台をつくるための手段でもあります。最近ではIPO支援にも注力し、専門性を拡大させています。

――その成長を支えた仕組みとして、担当制から部門制への転換があったとうかがいました。

以前は一人の担当者が、手続きも給与計算も労務相談も全部抱える「担当制」でした。でも顧問先の規模が大きくなるほど、求められるスピードも精度も上がります。そこで、労務相談はコンサルグループ、手続きは業務グループ、給与計算は専任、という形で分けました。いきなり全部を変えたわけではなく、まず発送業務の分担を半年試し、問題ないとわかってから、分業を広げていきました。経験を積んだ職員の中には、3号業務に前向きな姿勢を持っている方も多くいました。そういう意味で、部門制が挑戦の足掛かりになることへの理解があったので、結果として社内の反発はほぼありませんでした。厳しかったのは顧問先で、担当がいなくなることに対する不安の声もありましたが、丁寧にご説明し、3年以上かけてやり方を浸透させました。部門制で業務が回り始めると、パート職員の積極採用も可能になり、爆発的な増員と成長につながりました。

――M&Aでの拡大を意識されたのはいつ頃からでしょうか。

実はかなり昔から、営業戦略の一つとしてM&Aは意識していました。15年ほど前に周辺地域にアプローチレターを送ったのが施策の始まりです。当時は業界でのM&A自体の認知も低く怪しまれましたが、私の中では「いつかどこかを引き継ぎたい」という思いがずっとありました。直近の東京進出は、増え続ける現地のお客様へのフォロー体制を強化するためです。その次に譲受をした大阪支店については、ご縁とタイミングが重なったことが大きいですね。M&Aでの拡大において社労士業界はまだブルーオーシャンで、手つかずの市場が多く残っています。今後も全国的に拠点を広げていく方針です。最近では地元福岡でも、病気などで引退を考えられている70代の先生から「引き受けてほしい」とお声がけいただき、2026年4月に3名体制の事務所との統合を控えています。

――譲受の際、お相手の事務所のどんなところを最も重視されていますか?

条件も大切ですが、最後はやはり所長先生の「人柄」ですね。同じ事務所として一緒にやっていく以上、価値観が合うことは外せません。面談では「これまでどのように事務所を経営し、今後はどうなりたいのか」を必ずお聞きします。そこで何を大事にされているかがわかりますから。今の規模感からすると、目先の利益以上に次の展開を見据えた投資としての側面が強いですね。たとえ先生お一人の事務所であっても、その地域で長年築かれた地盤やつながりは、私たちにとって非常に大きな財産になるんです。もちろん投資としての意味合いも大きいですが、それ以上に先生方の想いや得意分野をどう将来に引き継ぐべきかを重視しています。理想は、譲渡後も先生に2〜3年は現場に残っていただくことです。顧問先とのつながりは最大の財産ですし、大切なお客様を不安にさせないことを優先したいと考えています。

――遠方拠点との統合で意識していることはありますか?

まず、月に一度は私が現地へ足を運び、対話する時間を設けるようにしています。オンライン会議も活用しますが、やはり直接会って話すと意思疎通が早い部分がありますね。一番の課題は、やはり弊所の「部門制」をどう理解してもらうかです。ほとんどの先生はすべてを一人で抱えてこられたので、口頭の説明だけでは分業化のメリットが伝わりきりません。そこで、滞っている手続きがあれば本社で一気に引き受けて、実際の対応を見せるようにしています。現場のスピード感を目の当たりにすると「こんなに楽になるのか」と腹落ちしてもらえるので、そこから一気に流れが変わるようになります。状況に応じて「どこまで先生が窓口に立つか」などの区分けを丁寧に行うことが、混乱を防ぐコツですね。

――文化の違いによる退職者の発生や、顧問先への影響についてはどうお考えですか。

幸いなことに、今のところM&Aを理由とした退職者は出ていません。秘訣は「急激な変化をさせないこと」に尽きます。顧問料も仕事のやり方も、最初は向こうの先生に任せ、様子を見ながらピンポイントですり合わせをしていきます。M&Aは、後継者難に悩む先生にとっても、将来の不安を抱える職員さんにとっても、解決の糸口になります。事務所の規模が小さいままだと「このままで大丈夫か」という不安がつきまといますが、組織に加わることで新たな方向性が模索できるようになる。業界全体としても、今後さらに「手続き専門」や「コンサル重視」などの役割分担が進むでしょう。もしM&Aに迷っているなら、まずはいろいろな人の話を聞いて視野を広げてほしいと思います。

――急拡大の裏で、職員さんの定着には苦労された時期もあったとうかがいました。

実は、2023年頃までは定着率がかなり悪く、5~6年で30人以上が辞めていくような時期がありました。リーダー層は残るものの、入社1〜2年の若手が毎年5~6人ずつ入れ替わってしまう状態だったんです。経験の浅い職員がミスをし、リーダーが謝罪に奔走する。結果として部門全体が疲弊してまた新人が辞めるという悪循環が続いていました。規模を大きくした分、職員一人ひとりのケアが行き届いていない面があったのだと痛感しています。

――その悪循環をどのように断ち切ったのですか?

マルチタスクを前提とする採用をやめ、経営指針書をベースに「一人ひとりの性格や強みを見る」方向に舵を切りました。たとえば給与計算が苦手な人がいたとしたら、無理にその業務を続けさせず、別の輝ける役割を見つけるようにしたんです。組織の規模が大きくなれば、その分だけ仕事の選択肢も増えます。拡大しながら個人の成長を支援する考え方に切り替えたことで、現在はほぼ退職者がいない状態です。一時の能力重視ではなく、組織として一人ひとりを大切に育てる土壌をつくったことが、M&Aでのスムーズな統合にも活きていると思います。

――託児所の設置やランチ補助など、環境づくりも非常にユニークですね。

託児所は8年前に、育休から戻りたくても子供の預け先がないパート職員のために開設しました。現在は地域のお子さんも預かれるくらいにまで発展しています。ほかにもランチの半額補助が出る仕組みや、毎月席替えをする「教育型フリーアドレス制」も導入しています。席替えは、周囲がその人の隠れた強みを見つけたり、時には落ち込んでいる人を支えたりするためのものです。私も例外なく対象ですよ(笑)。今年のスローガンは「強みを共有して活かす」。互いの強みを共有し、活かし合える温かい環境こそが、コミットメントの成長の源泉だと信じています。

――今後の事務所のビジョンを教えてください。

中長期目標として掲げていた売上3億、70名体制という目標がすでに目前に迫っていますが、さらなる高みとして、経常利益1億円、100名超の組織化を目指しています。具体的には、都市圏の営業拠点と福岡のバックオフィスを連携させ、手続きなどの基本業務で圧倒的な品質を担保しつつ、将来の人事コンサルニーズにも応えられる体制を磨くべきだと捉えています。こうした大規模化を推進するのは、単なる利益追求ではなく、十分な利益を確保して初めて、私が長年温めてきた「社労士業界全体の教育の底上げ」という夢への投資が可能になると考えているからです。

――その最終的な夢として掲げている「教育インフラ」とは、どのような構想ですか。

社労士業界の大きな課題は、開業時の実務レベルに激しい格差があることです。他士業のような充実した研修体制がない現状を打破するため、教育機能を備えた「士業のシェアオフィス」を福岡に創設したいと考えています。経験の浅い開業者が入所し、弊所から実務を依頼して対価を払いながら、プロとして育成する仕組みです。将来は独立後も協業関係を保つ「半独立」という新しいキャリアの形を定着させ、業界全体の質の底上げを図るのが私の究極のビジョンです。M&Aにも通ずる話ですが、規模の差だけで「合わない」と決めつけず、困ったことは相談できる環境があればと思っています。地域や顧問先との深いつながりという財産を大切に引き継ぎ、次の時代を創る仲間として、最善の未来を模索できれば嬉しいですね。

社会保険労務士法人COMMITMENT
■創業:1977年
■従業員数:50名
■支店数:2
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M&A成功のポイント

Point
  • まずは所長の人柄を重視し、価値観の一致を最優先する
  • 急な変化は避け、前所長が築いた信頼を大切に継承する
  • 分業の利点を実務で示し、現場の負担を減らしていく

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