「朝7時まで働いていたことも……」〜職員と顧問先の未来を守り本当にやりたいことを叶えるまで〜


公認会計士・税理士高木淳事務所
高木 淳先生 / 59歳
開業年数 | 14年 |
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顧問先件数 | 60件 |
職員数 | 3名 |

SAO税理士法人
白須 靖浩先生 / 49歳
開業年数 | 3年 |
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職員数 | 100名※ |
※グループ全体
職員には自由に働いてもらう一方で、休む間もなく働きつづけていた高木先生が「本当にやりたかったこと」とは?
SAO税理士法人とのM&Aに踏み切った背景や、その後実現できたことについて、譲受側で実務を担当していた尾島氏、代表の白須氏と共に振り返っていただいた。
職員を守りながら積み重なった激務の中で

――まずは、M&Aをお考えになったきっかけを教えてください。
高木: お客様がどんどん増えていくなかで、税理士業務を超えた、いわゆる付加価値業務に注力していきたいと考えていました。ただ、顧問先様が増えるごとに、組織をうまく機能・発展させることがむずかしくなり、本来やりたいことと組織のバランスが取れずにもがいていました。マニュアル化は大事と思いつつも所内の業務標準化ができず、職員同士で助け合いながら、その都度指示を出していくような形で事務所運営をしておりました。
そのようななかで、今後、お客様に密着したサービスを展開していくためには、税務やマネジメントの部分を切り離し、捻出した時間でコンサル業務に注力すべきだと判断しました。統合するのであれば、組織化が進んでいる事務所と一緒になった方が職員にとってもプラスになると考え、顧問先様を安心して任せられること、今いる職員たちをきちんと受け入れてもらえることを大枠の条件としてM&Aを検討し始めました。
職員たちは本当に頑張って働いてくれていて、なるべく働きやすい環境を提供してあげたいと思っていました。子育てや家族の介護がある職員は、柔軟に勤務時間を調整したり休暇を取れるようにしたりしていました。働く職員たちの生活を最優先に思っていたので、職員の働く環境を守れば守るだけ、自分にしわ寄せがきてブラックな働き方になっていました。繁忙期問わず、事務所に泊まって朝7時頃帰るような生活をしょっちゅうしていたので、朝、帰るタイミングで集団登校している子どもとばったり会って、「お父さん!」と声をかけられることも多々あり……。それでも、ギリギリのところで頑張っていて、採用活動も、もちろんしていました。でも、通常業務があるなかで、採用後のフォローに時間が割けずにすぐに辞めてしまう。その穴を埋めるべく、スポットの業務委託を活用するなど、試行錯誤はしていました。ただ、大きく状況を変えることはできないでいました。もちろん、所長が頑張ることは当然のことだと思う反面、この状況をずっと続けていくことに限界も感じていたし、目の前のことに追われるばかりで事業を伸ばしていけないし、大きな転換が必要でした。
こんなふうに、経営計画や付加価値業務をどんどんやっていきたいけど、時間が取れない。採用や職員の育成までとなると到底手が回らない……というご事務所は少なくないと思います。そして、M&Aを選択肢に入れづらい理由のなかに、「仕事の進め方をお相手に合わせなくてはいけない」というイメージがどうしてもあると思います。でも実際は、柔軟な選択肢があります。私の場合は、初めから実務はできるだけ手放してコンサル業に専念していきたい、という明確な目的があったので、それを士業事務所M&A支援協会の方にもお伝えし、最適なお相手を見つけていただきました。
――初対面の日、お互いの第一印象はいかがでしたか?
高木: SAO税理士法人のHPにあった、「お客様のCFOになりたい」と書かれた一文はまさに同じ考えで、よい意味でビックリしました。お会いして実際に話してみても、やはりビジョンは同じだと思いました。あと、事務所全体に「勢い」を感じたことも覚えています。
白須: 高木先生とは目指す事業の方向性、届けたいサービスの形も合う。第一印象からフィーリングが合うと感じました。そこは重要だと思うんですよね。税理士事務所の所長はワンマン気質な方が多いなか、”一緒になにかを創りあげていける”と感じました。
M&Aを決める理由の98%はお相手の”先生”
――譲受側として、受け入れたい理想の事務所はありますか?
白須: 税理士事務所の仕事の基本的な部分は、どこの事務所も大きく変わらないところがあります。特定の業種や業務に特化していたり、所内のDX化の進行具合に差があったりなどの違いはあっても、そこはある程度合わせていける。ただ、どうしても変えられないのは、ご一緒する”先生”です。先生のマインドや人格は変えることができません。その先生のもとに集まって働いている職員さんにも同じことが言えます。税理士事務所というのは、その延長線上にあるものだと考えているので、私がM&Aを決める理由の98%はお相手の先生ですね。
とはいえ、最初は直感なんです。その直感が、2回、3回とお会いしていくうちに確信に変わります。高木先生の場合も、「この人なら一緒にやっていける」という直感が確信に変わっていきました。所長面談の当日も、仕事の話はほとんどしませんでしたね。ご家族やお子さんの話で盛り上がったことを覚えています。
尾島: 高木先生のご事務所は地元に根付いた顧問先様が多いところも魅力でした。特に大田区の商工会や銀行からのご紹介が多く、誰もが知っている老舗の企業さんもたくさんご担当されています。
SAOは事務所が新しい分、一都三県に幅広く顧問先様はいますが、高木先生のご担当されているお客様と少し層が違うので、そういう部分も理想的でした。ただ、やはりいちばんは高木先生のお人柄と、タイミングです。お互いにとってのタイミング、これも本当に大切だと思いますや人格は変えることが
――職員や顧問先の反応はいかがでしたか?
高木: これまで職員から事務所体制の改善を求められたこともありましたが、なかなか理想の形に持って行けずに苦しんでいたので、「今度こそ働きやすい体制になるからね」と話しました。最初は自分たちの処遇など心配はあったと思いますが、SAOさんに直接お越しいただいき、これからのことを丁寧に説明していきました。ひとつの事務所、ひとつの拠点より、支店展開している事務所になったことで、職員たちも安心を得られたのではないかと、今になって思います。職員への発表の次に、顧問先様にはメールと書面で通知しました。「サービスの内容も担当者も変わりません。今後もよりよいサービスを提供していきます」というようなことを案内したので、特にお客様から不安がられることはありませんでした。
――M&A後の引き継ぎで注意するべきポイントはありますか?
白須: 引き継ぎを成功させるポイントは、「変えないこと」だと考えています。たとえば、就業時間やお給料、指示系統など職員さんに影響のある部分は何も変えていません。あと、最も変えてはいけないのが『会計ソフト』。これだけは変えちゃダメだし、仮に変えるとしても時間をかけて段階を踏むことが大切です。
本当の意味でM&Aが成立したと言えるまで

――今後の課題とビジョンを教えてください。
高木: わたしは蒲田支店長として残ります。ただ、今まで通りの役割と業務内容では、これまでボトルネックだった部分が解消されないので、SAOさんと相談しながら進めていければと思います。
尾島: 「高木先生だからお願いしている」という顧問先様が多いので、そういうお客様を引き継いでいくのは大変ですね。だからこそ、まずはいち早く信頼していただいて、よい意味で顧問先様をSAO側にどんどん寄せていきたいと考えています。もちろん、重要なことはやはり高木先生からご連絡することもあると思うのですが、そういうことも違和感なくSAO側で持てるようにならないと、本当の意味で「M&Aが成立した」とは言えないと思っています。
白須: 今後のビジョンとしては、まずは事務所全体の年間の営業目標の達成です。広告や紹介営業に加えてM&Aも取り入れ、事務所を拡大していかないと成し得ない高い目標を掲げています。事務所の規模が大きくなれば、M&Aの対象となる事務所もまた大きくなっていくと思うので、結果としてよいルーティーンになると考えています。ただ、想定上はよいルーティーンになるとしても、内部の管理や「人の和」、そして信頼関係を大切にしないと組織は崩れてしまう。そこのバランスを見ながら、大きな目標に向かって一体感を高めている最中です。
尾島: 顧問先様が増えていくと内部でも経済が回り、顧問先様同士のマッチングも期待できるので、双方にとって大きなメリットだと思います。実際に、ある病院さんが物件を探していたので、別の顧問先の不動産屋さんをご紹介したこともあります。こういう好循環がどんどん生み出せれば、事務所の付加価値も高まっていくと思います。
――最後に、M&Aを検討している、悩まれている先生方へメッセージをお願いします。
白須: おそらく、今後M&Aはどんどん増えていくと思います。なるべく事務所に体力がある早いうちに引き継いでいかないと、職員や顧問先様にも迷惑がかかってしまうので、経営者自身も含めて色んな意味で動けなくなる前に考えることが重要ではないでしょうか。少しでも早い方が選択肢も広がり、メリットがあると思います。