「100年続く事務所をつくりたい」〜いくつもの面談を経てやっと出会った理想の事務所〜

「100年続く事務所をつくりたい」〜いくつもの面談を経てやっと出会った理想の事務所〜
譲渡事務所

山下会計事務所

開業年数58年
顧問先件数100件
職員数3名
譲渡
譲受
譲受事務所

スペラビ税理士法人

開業年数4年
顧問先件数200名
職員数12名

都内で58年の歴史を持つ老舗会計事務所の山下会計事務所が、開業3年目の新進気鋭のスペラビ税理士法人と統合。父の思いを継ぐために、息子である山下氏がM&Aを検討した背景にはどんな思いがあったのだろうか。

58年間続いた事務所を守り抜くための決断

――まずは、M&Aを考えた背景についてお聞かせください。


山下: M&Aを考えたのは2024年の春頃からです。所長である父が89歳になり、体調を崩しはじめたことが大きなきっかけでした。私は税理士の資格を持っておらず、父が創業し58年間守ってきたこの会計事務所を、どうにかして守らねばという思いに駆られました。

顧問先のなかには、50年以上お付き合いのある方もいらっしゃる。従業員の生活もある。そう考えたとき、M&Aという選択肢が浮かびました。父は「生涯現役」を信条としていましたから、これまで事務所の承継について、私から話題に出すことはありませんでした。けれどいざ話を切り出すと、『それがいいね』『従業員と顧問先を頼む』と、気持ちのこもった言葉をもらいました。その一言が、私の背中を押してくれました。そこからネットで情報収集して、仲介会社にも何社か問い合わせ、今回のM&Aのほぼすべてを自分で決めていきました。父も顧問先のM&A案件を何度も経験しているので、M&Aに対する理解はあったのだと思います。

――お相手探しの際、どのような条件を重視されたのですか?

山下: 大きく3つありました。1つ目が従業員の継続雇用。給料や雇用形態もそのままに引き継いでもらえる事務所を探していました。2つ目が、事務所の立地です。目黒オフィスは父の所有物でして、顧問先のお客様もこの事務所に来られる方が多いので、そのまま継続してほしいと伝えていました。3つ目が経理ソフトの継続利用です。この条件で複数の仲介会社に相談したところ、ある会社からは20件以上の事務所との面談をすすめられました。職員にもまだ打ち明けられないなか、通常業務をこなしながら次々と面談を行っていくのは本当に骨が折れました。そんなとき、士業事務所M&A支援協会さんから紹介されたのは4件だけ。さすがだなと思いました。そして、スペラビさんと出会うことができました。
 
スペラビさんは、創業3年目とは思えないほどエネルギッシュで、未来に対する意志がはっきりしていました。実際に交渉を進めていた候補先のなかには、「顧客は引き継げるが、事務所の運営形態は大きく変更させてほしい」という提案もありました。しかし、それでは長年築いてきた顧問先との信頼関係が崩れる可能性がある。その点についてスペラビさんは、これまでの事務所の在り方を尊重してくれたのはもちろん、「100年続く事務所を作りたい」というビジョンにも感銘を受けました。スペラビさんと一緒になることによって、今までとは違う業種のお客様との接点もできますし、業務の電子化や効率化などの部分で職員も新しい考えも学べる点もよいなと思いました。

――スペラビ側の決め手は何だったのでしょうか?

栁: スペラビ税理士法人側としても、当然ながらメリットがある統合でした。私は元々会計士ではあるのですが、M&AのFAS業務及びPEファンド(事業投資)業務がキャリアのベースなので、M&Aには一定の見解があります。決め手は主に3点です。1つ目は、私たちが未開拓だった南東京の商圏に進出できること。2つ目は相続税申告案件という新たな専門分野を取り込めたこと。弊社はどちらかというと第三者承継やM&A案件を得意としているのですが、いわゆる相続案件はあまり扱ってこなかったんです。その点、山下会計さんは相続税の申告案件を毎年継続的に受注されていたので、そこも魅力的でした。そして3つ目が、職員の方々が自律的に動かれていたことです。統合後も職員さんに継続的に働いていただきたかったので、今回の引き継ぎで山下会計側の職員の方の働く環境はほぼ変えていません。自走されている組織だからこそ、業務のやり方や事務所の雰囲気はそのままに、今まで通りの働き方ができるように引き継ぎを進めました。とはいえ、「変えない」ことが目的ではありません。お互いに事務所をより良くしていきたいという思いはあるので、職員の方が今まで通りサービスの質を落とさずに働けるという前提のうえで、より良くできる部分があれば、お互いにキャッチアップしてやっていくことが目標ですね。

――顧問先や職員の方も長いお付き合いの方が多いと思うのですが、反応はいかがでしたか

山下: 職員だけでなく、顧問先離れもありませんでした。事務所名は変わっても、サービスも人も場所も電話番号も変わらない。顧問先には手紙でそう伝えたことが、安心感につながったのだと思います。古くからのお客様には旧名を併記して説明することもありますが、皆さん温かく受け入れてくださいました。

栁: 今は山下事務所さんの顧問先様の引き継ぎはほぼ完了しておりますし、事務所全体としてより売上をあげていくために、具体的に何が必要かを話し合っている最中です。すでにリードは獲得できているので、あとは仕組みを動かして軌道に乗せるだけですね。

――M&Aを成功させるポイントは何でしょう?

栁: お互いのビジョンを擦り合わせることです。M&Aは手段であり、目的ではありません。何のために統合するのか、その先に何を目指すのか。言葉にする以上に、感覚として「同じ方向を見ているか」が問われるのだと思います。

山下: お金や数字だけで考えないことかなと思います。今回のM&Aにあたって、いろいろな事務所さんを見てきましたが、いざ所長とお会いすると、「ここと組んだらどうなるか」というビジョンがある程度見えるんです。スペラビさんの場合は、初めてお会いした際に事務所がとても明るくなる未来が想像できました。そういった「人柄」や「縁」の部分もM&Aにおいては重要な要素かなと思います。

――M&Aを実行してよかったと感じる面はどんなところでしょうか?

栁: 統合によって生まれる新しい出会いやコミュニケーションは純粋に楽しいです。お互いの事務所の考え方があるからこそ面白いのだと思います。私の個人的な感想にはなってしまうのですが、山下先生の顧客対応スキルには本当に刺激を受けました。以前飲食店の経営をされていたこともあるそうで、サービス業の勘所をしっかり押さえた対応をされている。私も勉強になりますし、もっと頑張らないといけないなと思うようになりました。私は税理士ビジネスをサービス業としてやっていきたいという思いがあるのですが、税理士事務所で働いているだけだとなかなかサービス対応そのものを学ぶ機会はないので、山下先生の存在は事務所全体にもとてもよい影響を与えていると思います。今は目標として、10年以内に100名規模の売上がある事務所にすることを目指しています。

山下: 私はやはりM&Aのおかげで父の事務所を無事に存続させることができ、やっと心から安心できたということがいちばんです。あとはもう、職員3名と一緒に毎日元気に仕事を続けられるよう、これからも健康に気を付けて頑張っていきたいです。

早めの相談が未来をつなぐカギ

――最後に、M&Aを検討している、悩まれている先生方へメッセージをお願いします。

栁: M&Aを考えるなら「早めの相談」がカギだと思います。準備期間が長ければ長いほど、よりよい選択肢を確保できます。今のご事務所の価値を維持しながら、次の世代へスムーズに引き継ぐためにも、大切な職員や顧問先、そして長年築いてきた信頼関係や実績、所長としての思いを守るためにも、できるだけ早い段階から検討した方がよいと思います。

山下: 知り合いの経営者から「担当の税理士さんが高齢で、最近レスポンスも遅くて心配だ」という話を聞くことが増えました。実際、顧問先を変えたいという相談も受けることがあります。特に、地方のエリアでは深刻な問題だと思います。そういう話を聞くと、やはり長年信頼をいただいているお客様だからこそ、心配や迷惑をかける前に事務所の未来を考えるべきだと感じています。M&Aとは少し逸れてしまうかもしれませんが、一つひとつは小さい事務所でも、集まって統合をすると大きな力になると思いますので、そういう考えも未来の選択肢としては面白いのではないかと思います。
また今回、M&Aを進める過程で「ご縁」の大切さを改めて実感しました。単に条件が合うだけでなく、統合後のビジョンや価値観が一致する相手を選ぶことが何よりも重要です。実際に、統合後もスペラビ事務所さんと一緒に事務所の価値を高めながら、長期的な視点で事業をさらに力強く発展させていけると確信しています。

M&A成功のポイント

Point
  • お互いの強みを合わせてシナジー創出に成功
  • 人柄やビジョンを重視しwin-winな関係に
  • 「変わらないこと」が目的ではない