「同じ苦労を繰り返さないように」〜大手事務所とのM&Aで想像を超えた働きやすさを実現〜
 
	
税理士法人石島会計
江原 照雄先生 / 65歳
| 開業年数 | 74年 | 
|---|---|
| 顧問先件数 | 300件 | 
| 職員数 | 13名 | 

辻・本郷 税理士法人
桑木 小恵子先生
| 開業年数 | 100年 | 
|---|---|
| 顧問先件数 | 19,061件 | 
| 職員数 | 2,297名 | 
栃木県を拠点とし、2022年に辻・本郷 税理士法人と統合した税理士法人石島会計。なぜ、事務所が成長している最中にM&Aを行ったのか。そこには2代目所長の江原氏のある思いがあった。M&Aの中心となった4名に、統合直後から今までの変化について伺った。
苦しい引き継ぎを繰り返さないように

――まずは、M&Aをお考えになったきっかけを教えてください。
江原: 年齢的にはもう少し続けられるのですが、事務所の将来を考えたとき、選択肢として一度M&Aの話を聞いてみようと思って、士業事務所M&A支援協会さんに問い合わせをしました。資格者である坂田さんに事務所を任せることも検討したのですが、今の人員では実務と経営を掛け持ちしないといけなくなってしまう。それでは負担をかけすぎてしまうし、やっぱりM&Aがいいのではないかと思いました。
坂田: 事務所の経営自体は順調でしたが、次の所長が誰になるのかはっきりしていなかったので、いつか変化が来るかもしれないとは思っていました。
とはいえ実際に辻・本郷さんと統合するという話を聞いたときは驚きましたね。まさかそんな大きな事務所と一緒になるとは思っていなかったので……。
今は支社をまとめる立場ですが、マネジメントの立場になるとは思っていませんでした。所内でM&Aの発表がされた後、ある職員から「坂田さんは残りますよね?残るのだったら安心です」と言われて、そのときから「自分が切り盛りしなくては」と意識が変わったように思います。統合前の面談などで江原先生からも「今後は中心になってもらいたい」という話を伝えていただいたのですが、緊張していたのかあまり記憶がなくて……(笑)
でも、今思うと、ポジションをもらったからこそ成長できたのかなと感じます。
江原: 私自身、2代目の所長なのですが、先代が急に病気で亡くなってしまい、やむを得ず所長を引き受けたという経験があります。今回、そういう苦労を繰り返さないように早めに動き始めたというところもあります。
外谷: 辻・本郷としては、宇都宮エリアで商圏を広げていきたいという狙いがありました。もともと宇都宮駅前に相続専門の支店を置いていたのですが、さらに業務の幅を広げていきたくて。江原先生の事務所は法人業務で利益を上げられていて、ノンネームシートの時点でも懸念点がなく、ぜひお願いしたいとお伝えしました。
――大手事務所とのM&Aで不安に感じたことはありましたか?
坂田: もちろんありました。売り上げ目標やノルマなどが課されて、職員が窮屈に感じるのではないか、自由度が減るのではないかと心配していました。端的に言うとブラックな環境になるのではないかと思い、かなり気にしてはいました。でも実際はとても柔軟な環境で、いい意味での緩さもありとても安心しました。
江原: 最初は不安がありましたが、M&Aを進める際に、現状の待遇と根本的な仕事のやり方について大きな変更はないと聞いていたので、そこは安心していました。
坂田: 勤怠システムや所内の申請フロー、申告書のチェック体制など変わったこともあるので、以前と比べて工数は増えました。でも、辻・本郷さんの基準に合わせることで間違いなく品質は担保されるので、結果として無駄がない。職員もみんな納得しています。
外谷: まずは職員の皆さまが納得して前向きになっていただかないとM&Aを進めるわけにはいきませんので、最初の説明などは私たちも事務所にうかがって丁寧に説明させていただきました。
渡辺: 実際、私たちとしても今回のM&Aは「緩やかな統合」というイメージで進めていました。坂田先生とも「なるべく変えなくていいように進めましょう」という話をして引き継ぎを進め、1年ほどで現場は安定したように感じました。坂田先生がしっかりされているので、実務はとてもスムーズに進みました。
1年未満の退職がなくなり、人が辞めなくなった
――統合後、事務所にはどんな変化がありましたか?
坂田: 職員の定着率と新規採用の人数ですかね。以前は新しく採用しても1年以内に辞めてしまう人が多かったんですが、統合後の退職者はほとんどいないです。職員数は統合してから3年ほどで6人増え、さらに新しく3名の入社が決まっています。以前の事務所では考えられない規模の採用です。
辻・本郷さんと一緒になったからこそ人数がこれだけ増えていて、当然売上も増えていますし、よい変化ばかりです。
江原: やっぱり地方事務所は人を育てることがすごくむずかしいんですよね。新しく採用してもなかなか育てられないという状況が続いていたので、そういう面でも以前の事務所を継続していくのは大変だったと思います。
――育成で工夫されていることはありますか?
坂田: 採用をした後、まずは3カ月計画を運用しています。ある職員から「事務所に来てまず何をすればいいかわからない」、「明日何をしたらいいかわからない」という相談を受けたことがあり、そんなタイミングで本社から育成のカリキュラムをもらったんです。計画があると職員も自分のキャリアが見えやすくなるし、モチベーションにつながるなと思いました。
外谷: 支店ごとにばらばらの育成になっていたという課題もあったので、最初の1カ月はインプット期間、そのあとは先輩の同行をして決算説明や月次の説明を聞いてどんどん覚えてもらうイメージで、ある程度は統一するようにしました。今年からは新入社員は3カ月間本社預かりにして、よりインプットに時間を割いてもらうようにできたらなと考えています。特に法人業務は相続よりも幅広い知識が必要になるので。
渡辺: 相続業務に関してはうちにもノウハウがあるんですが、法人業務の育成は色々と試しながら模索しています。あと、2カ月に1回の1on1ミーティングで現場の声を吸い上げたり、年に2回の所長研修で横のつながりを強めていったり、所内のコミュニケーション活性化にも力を入れています。
坂田: 所長研修はありがたいです。全国には本当に優秀な所長がいるので刺激になります。普通、ほかの事務所の所長の話はなかなか聞けないですから。あと、困ったときは本社の方が垣根を越えてサポートしてくれるのもありがたいです。実際、採用に関する手続きや新入社員の育成を本社に丸ごとお願いしている支社もあります。
業務に関しても、複雑で専門的な見解が必要な案件などは本社にトスアップできる制度があるので、遠慮なく活用しています。本社から経験者や知識が豊富な方に来ていただいて、実際に現場に同行いただくこともあります。現場では職員にOJTで対応方法を教えていただけるので、事務所全体の成長にも直結していると思います。辻・本郷だからできることですね。
大切なことは「同じ方向」を向くこと
――今回のM&Aが成功したポイントは何だったと思いますか?
江原: 統合して事務所を残す形を希望していたので、所内に「キーマン」がいるかどうかが重要だと思います。坂田先生がいなかったら、ここまでスムーズに進まなかったと思います。実際、私の業務の引き継ぎ自体は思っていたほど大変なものではなく、あとの運営をどうするのかの方が大事です。
渡辺: 私も同意見です。結局、両事務所の懸け橋になる人材が必要。でも、引き渡すことになるE事務所側の方が大変なはずなので、そこをしっかりやっていただける方がいるのは心強かったですね。
外谷: もし、坂田さんのようなキーマンになれる人材がいなくても、もちろん事業承継は可能です。その場合、Wさんのようなエリアマネージャーを支店長として派遣しますが、こちら側を向いてくれるメンバーがどれだけいるか、が大切です。なので、まずは仲間をつくることが重要だと思います。若くてもいいので、一緒にやっていきたいと思ってくれるメンバーがいればもちろんサポートして育成もしていきます
早めの決断がすべての負担を軽減させる

――最後に、今後のビジョンを教えてください。
外谷: 各事務所30人ほどの規模にはしていきたいです。仮に退職があった場合、やはりそのくらい人数がいないと後が大変かなと思いますので。特に地方で経営統合させていただいた事務所で小規模なところはそれぐらいまで増やしていきたいと思っています。
坂田: 外谷先生と同じく、規模はどんどん拡大させていきたいです。法人業務の場合は1人辞めてしまうとその人の案件を引き継がないといけないわけですが、今は正直そこまでの余裕はない。あと、辻・本郷さんと統合してから銀行からの紹介や株価評価の案件が増えてきました。そういう新規案件もいつでも受け入れられる状態にしておきたい。いろんな適性を持っている職員がいるので、規模を拡大して職員の成長のチャンスももっと広げていきたいです。
